SAP セキュリティ & GRC

SAP GRC Risk Managementの概要とリスク登録・評価・対応の実務

SAP GRC Risk Managementでリスクを登録し、評価、対応策、承認、モニタリングまで一貫して管理するための実務ガイドです。リスク台帳の設計、SoDとの連携、運用時の確認ポイントを解説します。

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リスク識別、登録、評価、対応・承認、モニタリング・再評価の流れを示す図
目次
  1. SAP GRC Risk Managementの役割
  2. リスク登録の準備
  3. SAP GRCへのリスク登録
  4. リスク評価とスコアリング
  5. 統制と対応策の関連付け
  6. 承認とワークフローの運用
  7. モニタリングと再評価
  8. よくある運用上の問題
  9. 導入後に定着させる方法
  10. まとめ

SAP GRC Risk Managementは、業務プロセスに存在するリスクを登録し、影響度や発生可能性を評価し、対応策と責任者を追跡するための仕組みです。リスクを一覧化するだけでなく、評価結果、承認状態、対応期限、残存リスクまで記録することで、内部統制の運用状況を継続的に確認できます。

実務では、最初に対象プロセスと責任範囲を定義し、その後にリスク、統制、対応策を関連付けます。リスク管理の画面操作だけで完結させず、業務部門、内部統制担当、権限管理担当の役割を分けて運用すると、登録内容の品質とフォローアップの確実性を保ちやすくなります。

SAP GRC Risk Managementの役割

SAP GRCのRisk Managementでは、リスクを識別して評価し、リスク所有者や対応責任者を設定し、対応の進捗を管理します。対象は財務、購買、販売、人事、在庫などの業務リスクです。組織階層やプロセス階層に沿ってリスクを整理すると、部門別・プロセス別の状況を比較できます。

主な管理対象は次のとおりです。

  • リスク: 望ましくない事象、原因、影響、対象プロセス
  • リスク所有者: リスクを受け入れるか対応を判断する責任者
  • 対応責任者: 軽減策や是正活動を実行する担当者
  • 統制: リスクの発生または影響を抑える業務上の仕組み
  • 対応策: リスクを低減、移転、回避、受容するための活動
  • 評価: 発生可能性、影響度、固有リスク、残存リスク

リスク台帳の設計を先に決めておくことが重要です。リスク名を短く統一し、原因と影響を別々に記載すると、評価と対応策の関係を後から確認しやすくなります。

リスク情報の関連関係リスク、責任者、統制、対応策、証跡の関係を示すリスク情報の関連関係リスク、責任者、統制、対応策、証跡の関係を示す所有統制で軽減対応策で処置証跡で確認証跡で裏付けリスク事象、原因、影響、プロセ…リスク所有者リスク受容または対応優先…統制リスクを予防または検知す…対応策担当者、期限、完了条件を持…証跡実施または完了を示す記録。CertPas オリジナル図解
リスクとリスク所有者、統制、対応策、証跡の関係を示す図

リスク登録の準備

登録前に、対象となる業務プロセス、組織単位、評価期間、リスク分類、責任者を確定します。登録単位が細かすぎると同じ内容が大量に作成され、粗すぎると対応策や責任者を特定できません。実際の業務判断が分かれる単位で登録するのが実用的です。

登録前にそろえる情報

項目確認内容
プロセスどの業務のどの段階に存在するか
リスク事象何が起きる可能性があるか
原因なぜその事象が起きるのか
影響財務、法令、業務継続、信用への影響
所有者受容判断と優先順位付けを行う責任者
対応責任者具体的な活動を実施する担当者
期限対応完了または再評価を行う日付
証跡統制実施や対応完了を示す文書・記録

リスク記述は「購買承認が不十分」のような状態だけでなく、「承認されていない発注が登録され、不要な支出が発生する」のように事象と影響を含めます。これにより、対応策が権限変更なのか、承認手順の改善なのかを判断しやすくなります。

Risk Managementと関連GRC機能の役割業務リスク、アクセスリスク、統制活動の管理範囲を整理するRisk Managementと関連GRC機能の役割業務リスク、アクセスリスク、統制活動の管理範囲を整理するアクセス関連の対応を連携統制と課題を連携緊急アクセスリスクを含めるRisk Management業務リスク、評価、所有、…Access Controlアクセスリスク分析、申請…Process Control統制評価、認証、課題、是…EAM緊急アクセスの統制と利用…CertPas オリジナル図解
GRCにおけるRisk Management、Access Control、Process Control、EAMの役割分担を示す図

SAP GRCへのリスク登録

登録画面では、リスクの名称、説明、分類、組織、プロセス、所有者、評価情報を入力します。既存のリスクを複製する場合は、責任者、対象組織、期限、評価値を新しい対象に合わせて確認します。複製元の担当者や期限を残したまま保存すると、後続の通知とレポートが誤った宛先になります。

登録時は、次の順番で確認すると入力漏れを減らせます。

  1. リスク事象と影響を業務部門と確認する。
  2. 対象プロセスと組織階層を選択する。
  3. リスク所有者と対応責任者を設定する。
  4. 固有リスクの評価基準を適用する。
  5. 統制または対応策を関連付ける。
  6. 期限、証跡、再評価日を設定する。
  7. 保存後に承認ワークフローとレポート表示を確認する。

リスクの説明には、業務用語とシステム上の対象を併記します。たとえば購買プロセスであれば、発注、入庫、請求書照合、支払という流れのどこにリスクがあるかを明確にします。これにより、Risk Managementの登録情報と、SoD(職務分掌)の基本で扱う権限上のリスクを結び付けられます。

リスク評価とスコアリング

評価方法は、発生可能性と影響度を組み合わせる方式が一般的です。組織で定義した評価尺度を使い、固有リスクを評価した後、統制や対応策を考慮した残存リスクを評価します。尺度の意味を文書化し、評価者ごとの判断差を小さくすることが必要です。

評価時には、次の観点をそろえます。

  • 発生可能性: どの程度の頻度で起こり得るか
  • 財務影響: 金額、損失、引当への影響
  • 業務影響: 処理遅延、停止、品質低下への影響
  • 規制影響: 法令、契約、監査上の影響
  • 信用影響: 顧客、取引先、従業員からの信頼への影響
  • 残存リスク: 対応策を実施した後に残るリスク

数値スコアだけで優先順位を決めず、重大な法令違反や業務停止につながるリスクは、スコアが中程度でも管理者レビューの対象にします。評価の根拠、参照データ、判断日を記録すると、再評価時に前回との差分を説明できます。

統制と対応策の関連付け

リスクを登録した後は、既存統制がそのリスクをどの程度抑えるかを確認します。統制が存在するだけでなく、実施者、実施頻度、対象データ、証跡、例外処理まで確認することが重要です。対応策は、単なる「確認する」という表現ではなく、担当者と完了条件が分かる活動として登録します。

対応策の記載例

  • 承認権限を金額帯ごとに見直し、承認マトリクスを更新する
  • 仕入先マスタの変更を定期的にレビューし、変更証跡を保存する
  • 入庫と請求書の照合差異を月次で確認し、未解決項目を管理者へ報告する
  • 重要な職務分掌違反を抽出し、代替統制または権限修正を実施する

権限の組み合わせが原因となるリスクは、SAP GRC Access Controlの概要と連携して確認します。Risk Managementでは業務上のリスクと対応方針を管理し、Access Controlではアクセスリスク分析、権限申請、是正や代替統制の運用を扱うという役割分担を明確にします。

承認とワークフローの運用

登録後の承認者は、リスクの所有者、対応責任者、内部統制担当など、組織の責任分担に合わせて設定します。承認者が異動した場合は、未処理のワークアイテム、期限通知、レポートの責任者表示も合わせて確認します。

承認では、次の内容を確認します。

  1. リスク事象と影響が業務実態に合っているか。
  2. 評価値の根拠が記録されているか。
  3. 統制または対応策がリスクの原因に対応しているか。
  4. 対応期限と完了条件が具体的か。
  5. 残存リスクが受容可能な水準か。
  6. 受容できない場合の追加対応が定義されているか。

承認を形式的なステータス更新にしないため、差戻し理由を記録します。差戻し後は、説明、評価値、対応策、責任者のどこを変更したかを履歴で追跡できる状態にします。

モニタリングと再評価

リスク管理は登録と承認で終了しません。定期的に高リスク項目、期限超過、未完了の対応策、未評価のリスク、残存リスクが高い項目を抽出します。経営報告では件数だけでなく、前回からの増減、重大項目の変化、期限超過の理由を示すと判断しやすくなります。

月次確認のチェックリスト

  • 新規リスクが適切なプロセスに登録されている
  • 所有者と対応責任者が在籍者になっている
  • 期限超過の対応策に理由と次回期限がある
  • 高リスク項目の評価根拠が更新されている
  • 統制の実施証跡が確認できる
  • 重大なSoDリスクと業務リスクの対応方針が一致している
  • リスクの受容判断に承認記録がある

評価期間の終了時だけでなく、組織変更、業務プロセス変更、システム導入、重大なインシデント発生時にも再評価を行います。対応策を完了にした場合は、証跡を確認したうえで残存リスクを再計算し、必要なら追加対応を登録します。

よくある運用上の問題

リスクが重複する

同じ事象を部門ごとに別名で登録すると、件数と優先順位が分散します。リスク分類、プロセス、事象、影響の組み合わせで既存登録を検索し、共通リスクと部門固有リスクを分けます。共通リスクに複数組織を関連付けられる設計なら、重複登録を減らせます。

対応策が抽象的である

「運用を徹底する」「定期的に確認する」だけでは完了判定ができません。対象データ、実施者、頻度、証跡、例外時の処理を記載し、完了条件を具体化します。

担当者が正しく表示されない

ユーザー情報、組織割当、責任者設定を確認します。異動や退職の後に古い担当者が残ると、期限通知や承認が停滞します。責任者を変更した後は、未処理タスクと既存リスクの所有者表示を再確認します。

レポートの件数と現場認識が合わない

抽出条件、評価期間、組織範囲、ステータスを確認します。登録済み、承認済み、対応中、完了、受容済みを同じ件数として扱わず、報告目的ごとに集計条件を定義します。SAP GRC Process Controlの概要も参照し、統制評価や是正活動とリスク情報の境界を整理すると、二重管理を抑えられます。

導入後に定着させる方法

最初から全社のすべてのリスクを登録するより、重要プロセスを選んで登録基準、評価尺度、承認経路、月次報告を固める方が安定します。パイロットでは、購買、販売、財務など、権限リスクや統制証跡が明確なプロセスを対象にします。

定着後は、次の順に対象を広げます。

  1. 重要プロセスのリスク分類と登録基準を確定する。
  2. 評価者と承認者向けの判断基準を整備する。
  3. 対応策の完了条件と証跡要件を統一する。
  4. 月次モニタリングと経営報告を運用する。
  5. 組織変更やシステム変更を再評価のトリガーにする。
  6. 重複リスク、期限超過、未使用項目を定期的に整理する。

全体像を確認する場合は、SAP セキュリティとGRCの概要からAccess Control、Process Control、Risk Management、EAMの関係を整理できます。個別の権限リスクを扱う場合は、Risk Managementの業務リスクとAccess Controlのアクセスリスクを同じ対応計画に結び付けます。

まとめ

SAP GRC Risk Managementを有効に使うには、リスクを登録することよりも、業務プロセス、責任者、評価根拠、統制、対応策、証跡、再評価を一つの流れで管理することが重要です。リスク台帳の設計を先に固め、登録基準と評価尺度を統一し、期限超過と残存リスクを定期的に確認します。

SoDや統制評価と関係する項目は、担当製品の境界を明確にしたうえで連携します。これにより、リスクの発見、対応、承認、モニタリングが分断されず、管理者が優先順位を判断できる運用になります。

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