SAPマスターデータ管理
SAP LSMWデータ移行の基礎:レコーディングとバッチインプットを安全に運用する手順
SAP LSMWを使ったマスターデータ移行の基本を、移行方式の選択、レコーディング、ファイル変換、バッチインプット実行、エラー確認、品質管理まで実務手順として解説します。
SAP LSMWでデータ移行を始める前の整理
SAP LSMW(Legacy System Migration Workbench)は、既存ファイルのデータをSAP GUIの登録処理へつなぎ、マスターデータや初期データをまとめて登録するためのワークベンチです。特に、対象トランザクションの入力手順を記録するレコーディングと、入力データをセッションとして処理するバッチインプットを組み合わせる運用で使われます。
最初に移行対象、登録先トランザクション、項目の必須条件、変換ルール、エラー時の戻し方を決めます。品目、得意先、仕入先などのマスターデータを扱う場合は、登録作業だけでなく、重複確認、組織値の妥当性、担当部門による承認も移行計画に含めます。全体の管理方針はマスターデータ管理の全体像で整理できます。
LSMWは本番でいきなり実行せず、開発または検証環境で小さなデータセットを使って確認します。テストでは正常データ、必須項目不足、桁数超過、日付形式不正、既存キーとの重複をそれぞれ用意すると、変換処理と登録処理の境界を確認しやすくなります。
プロジェクトとサブプロジェクトを設計する
LSMWでは、移行対象をプロジェクト、サブプロジェクト、オブジェクトの単位で管理します。業務領域や移行対象ごとに分けると、変換ルール、ファイル、実行履歴を追跡しやすくなります。たとえば、品目基本データと品目販売データを同じ単位に詰め込まず、登録順序と担当者が明確になるように設計します。
命名規則には、対象業務、対象オブジェクト、環境、作成者または変更番号を含めます。移行仕様書には少なくとも次の情報を残します。
- 元ファイルの項目名と形式
- SAP側の項目名または画面項目
- 変換ルールと初期値
- 必須項目と入力制御
- 登録先トランザクション
- テスト件数、実行日時、結果
- エラー修正と再実行の履歴
本番移行では、データ準備者、変換ロジック担当者、業務確認者、実行担当者を分けると、誤登録の検出と承認記録を残しやすくなります。
レコーディングを作成して入力項目を確定する
レコーディングは、対象トランザクションを実際に操作しながら登録手順を記録する方法です。最初に登録画面を確認し、対象データに必要な画面遷移、ビュー、組織レベル、必須項目を整理します。その後、代表的な1件を入力して、保存までの手順を記録します。
レコーディング用のサンプルは、実際の移行データで発生する入力パターンを含めます。任意項目を入力しないケース、追加画面が表示されるケース、既存データを変更するケースが混在する場合、1本のレコーディングで全てを処理できるとは限りません。入力パターンごとにオブジェクトを分けるか、業務ルールを統一してから記録します。
記録後は、各フィールドが正しい構造項目に割り当てられているか確認します。画面上の表示名だけで判断せず、登録結果をトランザクションで再表示し、会社コード、プラント、販売組織、購買組織などの組織値が意図した場所に入っていることを確認します。
レコーディングは画面操作に依存するため、画面変更、権限、ユーザー初期値、必須設定の影響を受けます。移行期間中に対象トランザクションの画面設定や権限を変更する場合は、レコーディングを再テストします。
入力ファイルと変換ルールを準備する
入力ファイルは、項目の並び、区切り文字、文字コード、日付形式、数値形式を固定して作成します。項目名の行を含めるか、空欄をどのように表すか、先頭ゼロを保持するかを事前に決定します。得意先コード、品目コード、勘定コードなどは、表計算ソフトで開いた際に先頭ゼロが失われないように管理します。
LSMWのデータ処理では、構造の定義、フィールドの対応付け、固定値や変換ルールの設定を順番に確認します。元データの値をそのまま登録できない場合は、コード変換表、単位変換、日付変換、初期値設定を明示します。変換処理に業務判断を埋め込む場合は、仕様書に条件と例を残します。
たとえば、旧システムの分類コードをSAPの分類コードへ置き換える場合、変換表にない値を空欄で通さず、エラーとして止めます。未定義値を自動的に既定値へ置き換えると、登録は完了しても後続業務で誤った分類が使われる可能性があります。
ファイルの件数、キーの一意性、必須項目の空欄、参照値の存在を、LSMWへ取り込む前にチェックします。大量データの一括変更や登録が目的であれば、SAP MASSトランザクションの基本と比較し、LSMWが適切な方式か確認します。
バッチインプットを実行する
バッチインプットを使う場合は、変換済みデータを読み込み、セッションを生成し、少量のデータで処理結果を確認してから本処理へ進みます。最初の試行では1件または数件に絞り、画面遷移、登録結果、メッセージ、更新された組織値を確認します。
実行方法は、画面を表示して1画面ずつ確認する方式と、画面を表示せずにバックグラウンドで処理する方式を使い分けます。初回や変更後は画面表示でエラー箇所を特定し、安定した後にバックグラウンド処理で件数を増やします。処理単位を大きくしすぎず、エラー行を特定できる単位でセッションを分割します。
実行前には、対象期間、登録先組織、ユーザー権限、ロック状況、入力ファイルの版を確認します。登録処理中に同じキーを別の担当者が変更すると、ロックや更新競合が発生するため、対象データの編集時間帯を調整します。
バッチインプットの完了件数だけで成功と判断せず、登録後の照会、件数照合、代表レコードの画面確認を行います。金額、単位、通貨、日付、組織値は、登録後の業務画面で確認する項目としてチェックリスト化します。
エラーを確認して再実行する
エラーが発生した場合は、セッションログのメッセージ、対象レコード、入力値、処理ステップを記録します。エラーを修正する順番は、権限やロックなどの環境要因、ファイル形式、変換ルール、マスターデータやカスタマイズの前提条件の順にすると切り分けやすくなります。
再実行前に、対象レコードが一部だけ登録されていないか確認します。登録済みデータへ同じセッションをそのまま再実行すると、重複エラーや意図しない上書きにつながることがあります。再実行対象を未処理行、修正行、登録済み行に分け、処理結果を管理表へ反映します。
典型的なエラーには、必須項目不足、コード値不一致、日付や数値の形式不正、参照先未登録、権限不足、画面遷移の相違があります。エラーメッセージを単に削除して再実行せず、原因、対応、再発防止策を移行記録に残します。
大量処理でエラー率が高い場合は、全件を繰り返し実行するより、エラー分類ごとにデータを分割します。正常行を先に確定し、修正が必要な行だけを別セッションで処理すると、結果確認と復旧範囲を小さくできます。
データ品質と重複を確認する
移行完了後は、件数だけでなくデータ品質を検証します。キーの重複、名称の表記ゆれ、住所や税情報の欠落、単位や通貨の不整合、利用停止対象の混入を確認します。得意先や仕入先の重複確認については、SAP得意先マスターの重複チェックやSAP仕入先マスターの重複チェックの観点を利用できます。
検証では、元ファイルの件数、正常登録件数、エラー件数、除外件数、再処理件数を照合します。代表レコードの画面確認に加え、一覧出力や業務レポートで登録結果を確認し、後続処理に必要な関連データが揃っていることを確かめます。
品質基準を事前に決めておくと、移行完了の判断が安定します。たとえば、必須項目欠落はゼロ、未定義コードはゼロ、重複候補は業務確認済み、エラー行は対応記録あり、といった基準を対象データごとに設定します。品質チェックの進め方はマスターデータ品質チェックの基本にも整理されています。
本番移行の運用チェックリスト
本番実行では、作業前、実行中、作業後の3段階で確認します。
- 作業前:承認済みファイル、対象件数、バックアップまたは復旧手順、実行ユーザー、対象時間帯を確認する
- 作業前:LSMWオブジェクト、変換ルール、レコーディング、セッション分割を検証環境の結果と照合する
- 実行中:処理件数、エラー件数、ロック、ダンプ、業務影響を監視する
- 実行中:異常発生時の停止条件と連絡先を明確にする
- 作業後:登録件数、エラー一覧、代表レコード、関連組織値を確認する
- 作業後:使用ファイル、ログ、承認記録、修正履歴を保管する
本番ファイルは読み取り専用の保管領域へ保存し、ファイル名に抽出日、対象範囲、版数を含めます。実行担当者が手作業で内容を変更した場合は、変更理由と承認者を記録します。移行後に業務担当者が確認した結果も、セッションログとは別に保管します。
LSMWを使うときの判断基準
LSMWは、既存のSAP GUIトランザクションを利用して、定型的な登録をまとめて処理したい場合に適しています。入力画面を通じた検証を重視でき、変換ルールと実行ログを移行単位で管理できます。
一方、継続的な連携、大量データの反復処理、複雑な依存関係、厳密な再実行制御が必要な場合は、別の連携方式や専用プログラムを含めて設計します。LSMWを選択する場合でも、登録対象、データ量、実行頻度、エラー処理、監査要件を比較したうえで決定します。
実務で重要なのは、レコーディングを作ること自体ではありません。入力仕様を固定し、少量テストで登録結果を確認し、エラーを分離して再処理し、業務担当者が品質を承認できる状態にすることです。これらを一連の運用として設計すると、LSMWによるデータ移行を安全に管理できます。